損失補償とは
国が道路や公園などの公共事業のために、土地を一方的に取得する場合がある。こういった場合の補償を定めた規定が憲法29条3項の損失補償である。
憲法29条3項は「私有財産は正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる」と定めている。
「公共のために用いる」とは公共の利益に資する目的で用いられる場合を広く含む。「正当な補償」をめぐっては完全補償説と相当補償説が対立している。
完全補償説とはその収用があった前後での市場価格に応じて、財産的価値の全額の補償を求める考えであり、相当補償説は合理的に算出された相当な額を求める。
憲法上の位置づけ
財産権規制においても、損失補償が認められるかは争いがある。通説である特別犠牲説は社会全体の負担の平等を損失補償の根拠とするところ、財産権規制についても補償を認める。
特別犠牲説では、対象が一般人か特定人か、侵害の強度が財産権の内在的制約として受任できるかという基準で判断を行う。例えば相当な資本をすでに投入している場合には、侵害の強度が強いといえる。つまり、一般的で侵害が受任できるものには補償が認められず、国土開発といったような特定的なものには補償を認める。
判例
河川付近地制限令事件
この事件では、河川法に基づく河川付近の土地利用制限憲法29条に反するかが争われた。具体的には、河川の氾濫防止のために、土地の所有者に建築制限を課すことが合法化が問題となった。
河川の氾濫防止は公共の利益といえるが、それによる損害が一般的な受忍限度を超えているため、保証が必要とされた。
また、この事件において、憲法29条3項が直接裁判上の権利になる可能性が示された。
自作農創設特別措置法事件
この事件では戦後農地改革のための土地収用に対して保証が不十分であることが争われた。
判例はこの事件において、「正当な補償とは、その当時の経済状態において成立することを考えられる価格に基づき、合理的に算出された相当な額をいうのであって、必ずしも常にかかる価格と完全に一致することを要するものでないと解するを相当とする」と示し、相当補償説の立場を明らかにした。
補償規定のない法令
損失補償は、国による土地収用等といった適法行為に関する規定であり私有財産の補償を規定していて、国家賠償制度は国の違法行為による補償を定めている。そのためそのどちらにもあたはまらない場合に国による補償が受けられないという問題が生じる。その一例が予防接種の副作用への補償である。強制的な適法行為として行われる以上、国家賠償制度は機能せず、財産ではなく生命、身体への被害のため損失補償も認められない。
この点、過去の地裁判決において損失補償を緩やかに解し財産損害にも適用する判決が存在したが、現在は幅広く過失を認め国家賠償を認める高裁判決が存在し損失補償を適用する必要性が小さくなった。